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53 本の・少し

     「孤塁の名人」 津本陽

 合気を極めた男、佐川幸義さんの物語。
 武道の猛者達を軽く触れるだけで投げ飛ばしてしまうという、もうほとんどアニメの世界なんだけど、道場に弟子入りした著者の実体験なだけに疑いようがない。

 佐川さんの教えのひとつに合気で力は要らないとある。しかし、そう言いながら本人は超人的な体の鍛え方をしている。毎日腕立て伏せ500回、四股500回、降り棒1000回、大ハンマー200回。降り棒に大ハンマーって・・・その矛盾は読み進めるうちに何となく分かってきた。
 例えば握力のMAXが50kgの人と、MAXが100kgの人の50kgでは、同じ50kgでも質が違うはず。力は入れない、けど本当に力が要らないわけではないんだ。
 似たようなことで思い出したのが、ロック界の超絶ギタリスト ウリ・ジョン・ロートのこと。テクニックでは劣らないギタリストがたくさんいるのに、なぜ彼は特別なのか。それは初めて演奏の映像を見た時に理解した。やはりまったく力が入っていないように見える。茶でも飲んでいるような涼しい顔をしながら、指は複雑なフレーズを流れるように弾きこなす。このゆとりが彼の音を作ってるんだと妙に納得。

 達人たちは100%のパフォーマンスのために、200%の準備をする。人間が持つ可能性の奥行きを見た気がした。
2022 2 5